低濃度アトロピン点眼治療

近年、子どもの近視が進行することは、世界的に重要な健康問題として注目されています。
近視とは、遠くのものがぼやけて見える状態で、進行には遺伝的な要因に加えて、環境による影響も大きいとされています。
特に、外で遊ぶ時間の減少や、スマートフォンやタブレットなどのデジタル機器を使った近くを見る作業の増加が、近視を進める要因と考えられています。
近視が進む大きな理由のひとつは、「眼軸(がんじく)」と呼ばれる眼球の奥行きが伸びてしまうことです。
眼球が前後に長くなると、ピントが網膜よりも手前で合ってしまい、遠くがはっきり見えなくなります。
近視が進行すると、単に視力が落ちるだけでなく、将来的に「緑内障」「網膜剥離」「黄斑変性」といった重篤な目の病気を引き起こすリスクが高くなるといわれています。
これらの病気は、視力の大幅な低下や失明につながる可能性もあるため、早い段階からの予防と管理がとても大切です。

近視と正視の違いを示す図。左は正常な眼で、光が網膜上でピントを結ぶ。右は軸性近視の眼で、眼球が前後に長く、光のピントが網膜より手前で合っている。近視はこのように眼軸長が伸びることで発生する。
世界の近視および強度近視の人口推移を示すグラフ。2000年から2050年にかけて近視人口は増加し、2050年には全人口の49.8%が近視、9.8%が強度近視になると予測されている。出典はHolden B.A.らによるOphthalmology 2016年の研究。

低濃度アトロピン点眼治療とは

もともとアトロピン点眼薬(濃度1%)は、子どもの屈折検査(視力のもとになる目の状態を調べる検査)で長年使用されてきました。しかし、2006年にシンガポールで行われた研究により、このアトロピン1%点眼薬には「眼軸長の伸び」を抑える効果、つまり近視の進行を抑える働きがあることが明らかになりました。

ただし、1%という高濃度のアトロピンを使うと、強い副作用が出ることが問題となっていました。たとえば、瞳が開いたままになる「散瞳(さんどう)」や、ピント調整がしにくくなる「調節力の低下」によって、日中まぶしさを感じたり、近くのものが見えにくくなったりします。さらに、点眼をやめたあとに一気に近視が進んでしまう「リバウンド現象」も報告されており、日常的な治療には向いていませんでした。

このような問題を解決するために開発されたのが、低濃度アトロピン点眼薬です。低濃度のアトロピンは、1%に比べて副作用が非常に少なく、日常生活に支障をきたすことなく、近視の進行を効果的に抑えることができる治療法として、現在多くの国で注目されています。

*当院では参天製薬から発売された、「リジュセア®ミニ点眼液0.025%」を採用しています。

【特徴】

  • 近視の進行を平均40~60%軽減させると言われている
  • 日中の光のまぶしさにほとんど影響を与えない
  • 目の遠近調節機能(手元を見る作業)にほとんど影響を与えない
  • 近見視力の低下にほとんど影響を与えない
  • 毎日就寝前に1滴点眼するだけの簡単な治療法

【副作用】

  • 眩しさ、手元の見えにくさ
  • アレルギー症状(目のかゆみ、充血、皮膚の炎症)
  • 動悸や不快感など

【治療の注意点】

  • 低濃度アトロピン点眼薬による治療は、保険適応外(自費診療)となります
  • 本治療は近視を回復させるものではなく、必ずしも効果が出るものではありません
  • 毎日欠かさず点眼することは根気が必要です
  • 最低でも2年間は継続が必要です

アトロピン治療の歴史

  • アトロピン1%による近視抑制の研究
    抑制効果は強いが副作用も強く、点眼中止後の近視進行が大きい。
  • 0.5%・0.1%・0.01%での研究
    抑制効果はあり、副作用は弱くなった。
    点眼中止後の近視進行度合いは濃度に依存することがあきらかになる。
  • 0. 05%・0.025%・0.01%での研究
    0.05%の近視抑制効果は(64.5%)と高い、0.01%では(27.7%)と報告。
    副作用は同等であり、重篤なものはないと報告される。

◆参考文献
※ Chua WH et al: Atropine for the treatment of childhood myopia. Ophthalmology 113:2285-91, 2006
※ Tong L et al: Atropine for the treatment of childhood myopia: effect on myopia progression after cessation of atropine. Ophthalmology 116:572-9, 2009
※ Chia A et al: Atropine for the treatment of childhood myopia: safety and efficacy of 0.5%, 0.1%, and 0.01% doses (Atropine for the Treatment of Myopia 2). Ophthalmology 119:347-54, 2012
※ Chia A et al: Atropine for the treatment of childhood myopia: changes after stopping atropine 0.01%, 0.1% and 0.5%. Am J Ophthalmol 157:451-7.e1, 2014
※ Yam JC et al: Low-Concentration Atropine for Myopia Progression (LAMP) Study: A Randomized, Double-Blinded, Placebo-Controlled Trial of 0.05%, 0.025%, and 0.01% Atropine Eye Drops in Myopia Control. Ophthalmology 126:113-24, 2019
※ Yam JC et al: Two-Year Clinical Trial of the Low-Concentration Atropine for Myopia Progression (LAMP) Study: Phase 2 Report. Ophthalmology 127:910-9, 2020

リジュセアミニ点眼液0.025%

当院では、小児の近視進行を抑える治療として、参天製薬から発売された「リジュセア®ミニ点眼液0.025%」(有効成分:アトロピン硫酸塩水和物)を採用しています。

この点眼薬には、アトロピン硫酸塩水和物が0.025%の濃度で含まれており、従来の1%アトロピンに比べて副作用が少なく、安心して継続できる治療薬です。

日本国内では、5歳から15歳の子どもの近視患者を対象にした臨床試験(第Ⅱ/Ⅲ相のプラセボ対照二重盲検比較試験)が実施されました。その結果、本剤を2年間(24ヵ月)使用したグループは、偽薬(プラセボ)を使ったグループに比べて、近視の進行を有意に抑えられることが確認されました。

この結果を受けて、「リジュセア®ミニ点眼液0.025%」は、2024年12月に『近視の進行抑制』を効能・効果として、日本で初めて製造販売の承認を受けた薬剤です。

  1. Step01【事前検査(保険診療)】

    初診時、もしくは点眼開始前の検査、診察
    検査を行い近視の状態や視力など一般診療を行い、その際に治療適応についても相談を行います。
    必要に応じて、眼位検査や調節麻痺薬での屈折検査、眼鏡やコンタクトレンズの処方なども行います。

    ※事前検査は一般診療のため保険適応で行いますが、すでに低濃度アトロピン点眼を使用されている方などは自費診療となり、初回から点眼の処方を行うことがあります。

  2. Step02【開始時】

    リジュセアミニ点眼液0.025%処方(リジュセアミニ点眼液0.025%x 1ヶ月分処方)
    点眼薬の説明ならびに同意確認の上、点眼を1ヶ月分(1箱)処方します。

  3. Step03【1ヶ月後】

    検査、診察(検査 + 診察 +リジュセアミニ点眼液0.025%処方x 3ヶ月分 処方)
    検査および診察にて継続可能か判断し、問題が無ければ3ヶ月分の点眼薬を処方します。

  4. Step04【4ヶ月目以降(定期診察)】

    検査、診察(検査 + 診察 +リジュセアミニ点眼液0.025%処方x 3ヶ月分 処方)
    3ヶ月毎の定期検査および診察を行なっていきます。

*上記診療の流れは一例になります。検査内容は視力検査以外に眼軸や調節麻痺検査などを適宜行う場合がございます。

費用

本治療は自費診療となるため、治療開始後は本治療に関連する検査・診療・治療に保険診療は適応されません。

  • リジュセアミニ点眼液0.025% 4,400円(税込)/1箱
  • 一般検査・診療代 2,200円(税込)
  • 一般検査・特殊検査・診療代 3,300円(税込)

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初回治療費 リジュセアミニ点眼液0.025% 1箱 + 一般検査+特殊検査・診療代 7,700円(税込)
1ヶ月後の治療費 リジュセアミニ点眼液0.025% 3箱 +一般検査・診療代 15,400円(税込)
4ヶ月目以降の治療費 リジュセアミニ点眼液0.025% 3箱 +一般検査・診療代 15,400円(税込)
リジュセアミニ点眼液0.025% 3箱 +一般検査・特殊検査・診療代 16,500円(税込)

※リジュセアミニ点眼液0.025% 1箱 に1回使い捨ての点眼容器が30本入っており1箱で1ヶ月分となっています。
※上記の診療の流れは一例であり、他の近視進行予防治療との併用や当院での治療経過により診療間隔、検査内容に変更が加わる可能性があります。

※一般検査:屈折力検査、裸眼・矯正視力検査、
※特殊検査:眼軸長検査、必要に応じて眼底3次元画像解析や眼底写真撮影など

特殊検査では近視進行抑制の効果判定を行うため眼軸長を測定し近視進行速度のトレンド解析を行います。また必要に応じて同時に副作用などの精査を目的とした眼底3次元画像解析や眼底写真撮影などの検査を行うことがあります。
眼軸長検査・眼底3次元画像解析・眼底写真撮影などはすべて特殊検査の費用に含まれます。
眼軸長検査は年に1~2回程度を目安に行っております。

注意

「リジュセア®ミニ点眼液0.025%」は、自費診療での処方となるため、点眼薬を継続してご使用いただいている期間中は、近視に関わるすべての治療が自費診療扱いとなります。
この対象には、眼鏡やコンタクトレンズの処方など、近視の矯正を目的とした診療も含まれます。たとえ点眼薬の処方とは別の日に来院された場合でも、近視に関連する内容であれば保険診療の適用外となりますので、あらかじめご了承ください。
なお、結膜炎やものもらいなど、近視とは関係のない目の症状での受診については、点眼処方日と異なる日にご来院いただければ保険診療が可能です。ご不明な点やご心配なことがありましたら、いつでもお気軽に当院までお尋ねください。